症例のご紹介

症例のご紹介
長い間 診療に携わっていると時々たいへん珍しい症例やとても診断・治療が困難な症例にめぐり会うことがあります。そのような症例との戦いをご紹介することで もし不幸にも同様の症例に遭遇してしまった飼い主の方々に何かしらの役に立てばと思い、このようなコーナーを立ち上げてみました。

両側の前肢に脱臼と骨折を起こしてしまったネコ

両側の肘関節脱臼と右前肢の骨折(モンテッジア骨折)を起こした猫
外へ出るネコちゃんは交通事故や高い所から落ちたりして脱臼や骨折をしてしまうことがあります。たいていの場合片側の足(前肢)だけで起こしているので、手術などで脱臼や骨折を整復した後、異常の無い方の足で体を支えることができるのですが、このネコちゃんは両方の前肢を脱臼し、しかも片側の前肢は骨折も起こしていましたのでどうしたものか悩みました。手術もかなりたいへんでしたが、骨折している足の方が安定していたため、そちらで負重できるよう強固な固定を行い、何とか治すことができました。今ではほとんど普通に生活できていますが、この足でほふく前進をするように家まで帰ってきたそうなので、とても頑張り屋さんのネコちゃんに脱帽です。

肩甲骨の脱臼を起こしたネコ

動物の解剖学に詳しい方ならネコの肩甲骨は筋肉のみで体に固定されているはずなので、「脱臼」という表現はおかしいと思うかもしれませんが、肩甲骨を固定している筋肉群が完全に壊れてしまった状態を表現する適切な言葉がないためこのように書きました。
普通このようなひどい損傷をおこすと、たいてい神経もダメになっているので元通りに機能を回復することは困難なのですが、このネコちゃんは神経は生きていたため足を使おうとはするものの安定せず、大きく上下に動く上、回転(捻転)もしてしまい、見ている飼い主さんも何とかならないかとおっしゃっていました。最初筋肉のみを頑丈に縫合はしたものの、やはりネコの体の重さには耐えられず、あえなく再断裂。何か良い手段はないかと調べてみると肩甲骨の下側に穴をあけ、調度その下側にある肋骨(ろっこつ)にワイアーで固定し、筋肉が回復するまでの時間かかる力を補強するという方法がみつかり、ただちにそのように固定を行いました。その結果固定は予想以上に肩甲骨を安定し、1ヶ月後のレントゲン検査ではワイアーは切れてしまったもののネコちゃんの歩様はまったく以前と変わらないほどにもどってくれました。つい最近もそのネコちゃんがワクチンに来られましたが、後遺症もなく、飼い主の方にはとても感謝していただいています。肩甲骨の整復のシェーマ
渡辺ミミ 手術後

自動車に乗り上げられてしまった子猫

骨折整復後の子猫
交通事故にあう動物の多くは車にはねられ、骨折などの障害を起こし運ばれてくるのですが、車に乗り上げられてしまった場合、そのダメージは はねられた時の何倍にもなり、命を落とすケースがほとんどです。この子猫は自宅で車にひかれてしまい、骨盤の複雑骨折、尿道の断裂、腹壁破裂などの多重障害で運ばれてきました。当初 助けることは困難かなと思いましたが、生きようと頑張っている動物にはできるだけの手段で助けてあげたいと思い、私の戦いが始まりました。まず命に直結する腹壁の断裂と尿道の断裂を治し、数日後 骨盤の骨折を整復しました。これで快方に向かうかと思った矢先、尿道の筋肉が正常に緩まないことによる排尿障害が起こり、塩酸タムスロシン(ハルナール)というあまり使わない薬を用いることにより正常にもどすことができました。
動きも排尿もまったく元通りになったときは自分でした仕事ながら少し感動した記憶があります。
ただこの猫は当院に来る前に別の病院で皮下に注射を2本打たれて返されたとのことでしたので、初めから諦めてはいけないとつくづく思った症例です。骨折の子猫

PageTop

  • サイト名